コロナノコロ

コロナ生活から思うこと

パンがはいからであったころ

ケーキなんか高くて庶民の口に入らなかったわたしの子供のころは、菓子パンがケーキみたいなものであった。まだわたしの家がケーキ屋であったから、口に入るので、友達からしてみたら、夢のような家であったろう。ケーキを作るときにスクラップが出る。スポンジの頭だとか、カステラの端だとか、売り物にならない菓子が、ばんじゅうという木製の入れ物にいくつも出る。返品になったケーキもあった。それらが一階の工場の隅に置いてあり、祖母が紙袋に入れて、50円で家の玄関で密かに売っていて、小遣い銭にしていた。どうせ捨てるものだが、勿体ない。近所の人や、話を聞いてきた人が、建物の横にあった玄関から、「ばっちゃ、切り端売ってけろ」と、津軽弁で下から叫ぶ。すると祖母は袋を持って階下に出る。中身はごちゃごちゃといろんな菓子のくずが混じっていた。パイもあるし、ドーナツもあり、ひな祭りのときは、菱形のケーキが入ったし、クリスマスの後は、サンタのチョコも入っている。
 わたしのクラスの友達は、それを目当てに家に遊びにきた。あいつのところに遊びにゆけば、たらふくケーキのくずが食えると、次々にやってきた。普段はケーキなんか口にもできないのが、腹いっぱいそれだけで食べられた。ずっと後になっても、昔の友人たちは、そのことを話していた。切り端はよかったな、うまかった、と。


 学校はまだ給食というのがなかった。みんな弁当だった。幼稚園のときに、ずっと弁当をお手伝いさんに作ってもらい、それを持っていったが、みんなはパンを持参していたりした。見たら、食パン二枚にサンドしている甘いものらしい。中身はいろいろあった。ピーナツクリームにジャム、チョコレートなど。どこで買ったのと、聴いたら、街には小さなパン屋があって、そこで作っている店があちこちにあった。そこで買ってもらい、弁当にしているのだ。それが幼稚園で流行した。わたしも食べたいと思う。どんな味がするのだろう。みんな美味しそうに食べている。それで親にねだってパン屋に行った。三斤棒の食パンをその場でスライスしてくれて、お好みのフィリングをサンドしてくれる。こってりとしたカスタードクリームもあった。イチゴジャムは本物か、どぎつい赤い色をしていた。昔は人工着色料も普通に使われ、サッカリンなど、甘味料もいまでは使えないものも使っていた。砂糖が高いときで、ズルチンなんかも使われていたが、肝臓障害が発生して使用禁止になるまで、そういう怖いものが食品に多用されていた。それでもみんなどこも悪くなく大きくなったし、長生きだから問題はなかったのか。
 その食パンサンドは10円だった。青森のソウルフードと何年か前にテレビでも紹介された工藤パンのイギリストーストは、マーガリンに砂糖を混ぜて、食パンでサンドしただけの単純なものだが、それが子供のときの御馳走で、郷愁があって大人にも売れている。
 青森市の大手といえば工藤パンだが、街の小さなパン屋さんも頑張っていた。赤田パンというのもあった。中学のときは、昼になると、廊下に店開きする。生徒たちがばんじゅうに並べられたパンを取り囲み、何にするかと迷っている。ホットサンドの種類もいろいろと出た。いまでもあるが、ナポリタンや焼きそばが長ポットのパンにサンドされているもの。わたしが好きなのはコロッケサンドで、いまでもそれはたまに買う。現代ではコッペパンのサンドが流行しているが、コッペパンは昔は貧しい人たちの常食の象徴だった。給食が始まったのは、わたしが小学6年の3学期で、もう卒業のときの昭和39年の1月だった。そのときは脱脂粉乳ミルクとコッペパンとおかずが一品ついた。
 家の隣がパンを売る店であった。角店であったが、向かいに東奥女子高と中央高校という女子高が二つもあって、女高生たちが朝に群がる。わたしも小学生のときに、それに突撃していた。朝のうちになくなるからだ。わたしの好きなパンは、レーズンの入った頭脳パンというやつで、食べたら頭がよくなると書かれていた。いまなら、誇大広告だ。一生懸命にそれを食べ続けたが、全然成績は上がらなかった。牛乳パンというのもこの前、スーパーで売っていて、懐かしいと買い求めた。昔の牛乳パンは生地に牛乳を練りこんで焼いただけのコッペパンであったが、中には何も入っていない。それが美味しそうに見えたのは、ビニール袋が乳白色の半透明で、如何にも美味しそうに見えたのだ。それと好きで買ったのが、いまもあるフライサンドという、食パンの耳を揚げたカリカリをケーキ生地を上に乗せたパンにまぶすようにして焼いたもの。豆パンも好きだった。甘納豆が三種類くらい練りこんで焼いたもの。三色パンもいまもあって驚いた。ジャムとチョコとクリームと3つのフィリングが入ったパンで、どれがどれかと当てる楽しみがあった。


 菓子パンはたまには食べるが、カロリーオーバーで食べなくなったのはかなしい。パンの裏のカロリー表示で600kcalとあると、たったひとつの菓子パンで昼の定食分くらいあるのだ。それならちゃんと食堂でランチを食べたほうがいいに決まっている。菓子パンを四個も食べたら、その日のカロリーは全部摂ったことになる。それは恐ろしいことだった。食べたいが健康のために、我慢していて、菓子パンコーナーは目を瞑って通り過ぎることにしている。子供のときにすりこまれた嗜好というのは、大人になっても変わらないのが面白い。

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