コロナノコロ

コロナ生活から思うこと

千葉は無縁の土地ではなかった

 千葉に引っ越してきたときは、海の近くがいいと、漠然と考えて、部屋を探しにきた。いままでは都民が長く、かつては横浜でも若いときは暮らしたので神奈川県民であったときもあった。千葉県民になるのは初めてだった。千葉県は縁のない土地ではないと、思い返せばそうなのだ。まず、戦前に、親父が若かったとき、千葉に一時来ていた。洋菓子店の銀座本店で小僧のときから働いて修行していたが、親父から聴いた話では、自分と同世代の若者が、いい服装で来店すると、自分の月給と比較しても大金でぽんとケーキを買ってゆく。その格差を見せつけられて、自分が如何に都会の底辺にいるのかと、仕事も嫌になると、黙って抜け出して、当時新興宗教のように苦悩を抱いた人たちの間に広まっていたモラロジーの道場が千葉にあるのを聞いて、そこに入り込む。いまならオームなどの宗教に嵌って帰らない若者と同じだった。親父はかぶれやすい。先日、おふくろに電話で、親父が千葉県のどこにいたのか知らないかと聞いたが、そこまでは聞いていないと言う。ネットで調べたら大正15年に廣池千九郎によって道徳教育塾が創立されたという。昭和10年に現在もモラロジー研究所のある千葉県柏市に道徳科学専攻塾を設立したとある。それで判った。そこに親父はいたのだ。設立してまもないときだ。そのままそこにいたら、戦後はいい幹部までいったかもしれない。
 わたしの従弟が中山の法華経寺にいた。位も上であったようだ。いまは他の寺に移ったが、大正大学を出てから、荒行をして、日蓮宗の厳しい修行を終えて、坊さんとしてその本山みたいなところに勤めた。わたしは海外旅行に行く途中、成田空港の出発まで時間があったので、寺に寄ってみた。従弟の名前を受付で告げると、様付けで呼んだから、偉くなったのだろう。すぐに呼んできてくれた。久しぶりの邂逅で、わたしのブログは毎日読んでいると、こっちの事情は知っていた。特別に寺の中を案内してくれた。広い。団体さんもバスで来るらしく、その休憩所みたいなところも広い。一度に何百人と参拝に訪れる。たまたま、文化庁の職員さんたちが車で来ていた。それを尋ねたら、この寺には国宝の日蓮が書いた立正安国論が保管されていて、それを毎度、存在確認に来るのだとか。それまでは見せてはくれなかったが、由緒ある寺なのだ。
 もう一人、従兄がいる。市川市でNPO法人の代表をしていると前にこのブログで書いた人だ。わたしとよく顔が似ている。写真を見せても、うちの息子たちも間違うくらいだ。いまは髭もはやして、小澤征爾の息子の俳優の征悦によく似ている。彼は精神病や知恵遅れの人たちの社会復帰の作業場を設けて、そこで簡単な仕事をさせて、賃金を出している。その仕事を銀行や生保やデパートから請け負ってくるのも彼の仕事なら、就職のお願いにも出かける。20人くらいの精神障がい者たちのリハビリをしている。ボランティアで老後をそういう仕事に捧げたのはどういうことがきっかけかと前に呑んだときに聴いたが、よく解らないという。わたしと同じで、見ていられなくなる性格なのだろう。また連絡して会いに行ってこよう。


 うちの息子たち三人も10年前までは、千葉にいた。柏市のマンションを借りてみんな暮らしていた。長男がまだ独身のときは、柏駅前のワンルームで暮らしていた。結婚してからは江東区のマンションに引っ越したが、柏にはわたしはよく泊まりに行った。次男も、柏市の第四小学校の裏のマンションにいたが、その前はそこから少し離れたところの賃貸で新婚生活をしていた。事業で儲かると、ぽんとキャッシュで分譲マンションを買った。2LDKのベランダも広い新築で、旅行の帰りによくそこで泊めてもらった。ところが、3.11で柏市が放射能のスポットになると、毎日のようにデシベルの数値が市民に通知され、学校でも校庭で遊ばせず、窓は締め切り、家でも水道水は飲まないで、ミネラルウォーターを飲んでいた。そんな汚染された街には子供たちのために住めないと、息子は買ってまだ6年しか経っていないのに、損をしてまでマンションを売ってしまった。それからは買うことはなく、いまは豊洲のタワマンで暮らしているが、賃貸にしている。何があるか判らないから、買って失敗したいい経験をした。古本屋の三男も独身時代は兄貴のマンションに居候して柏市で仕事もしていた。それだから、三人に会いに、わたしはよく柏には行った。孫たちと一家が青森に遊びに来ると、わたしは車でドライブに連れて行った。竜飛岬の売店で、孫の話す言葉が違うから、売店のおばさんが、どこから来たの?と聞いた。柏からと小さな孫娘が答えると、近いねとおばさんは言った。津軽にも柏村というのがあった。いまは合併したが、五所川原市の隣だ。


 千葉はそんなことで、わたしには縁がなにかとあったのだ。いま偶然に流れ着いて、ここにいるが、何か呼ばれて来たような気もしないでもない。住めばいいところだ。とても気に入っている。


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