コロナノコロ

コロナ生活から思うこと

ふりまわされてどっちだ

 目隠しされて、ぐるぐると体を回されて、方向感覚をなくする遊びがある。カイヨワが遊びの定義をしている。昔習った社会学のテキストには、眩暈というふりまわされる遊びのことが書かれていた。それは遊園地で体験できるが、いまの自分は相方といて、それが毎日体験できている。あれでもない、これでもない、どっちなんだと、気分でころころ変わるのが、いつものことなので、ふりまわされないようにしなければならない。
 だいぶ精神的に相方は落ち着いてきていた。朝はゆうべ買ってきたクロワッサンで。知らない街で寝起きすることは落ち着かない。この日は祝日で職員さんたちはいない。明日の朝、またここに来るからと伝えて出た。地下鉄で九段下まで行って、半蔵門線で表参道まで出勤すればいいのに、何を考えているのか、逆方向の市川に出て、そこから総武線乗り換えて東京駅と遠回りしていた。遅刻はしなかったが、相棒に電話を入れて、少し遅れると。
 学校は入試の最中で、正門にはパネルで目隠しした。運動会のときもそうだが、芸能人の子供が通うから、週刊誌がうるさい。写真を撮れないようにするのだ。何もすることがない。同時に入試父兄面談会もあり、われわれは掃除でうろうろしないで待機と言われていた。受付だけの業務。
 相方からは電話もなく、何事もないようだ。
 翌朝、地下鉄乗り換えで江戸川区のマンションに向かう。途中で相方から電話がきて、入れないと言ってきた。やはりと、本当は一般の人は立ち入り禁止なのだ。面会も役所の人しかダメで、泊まりなんかできない。よほどの身内でなければいけない。わたしは他人なので許可は下りないのだ。それで近くのスーパーで待ち合わせる。そのスーパーで、ちらりと見たら青森りんごの黄色いときが14個で500円少しの激安。少し傷があるからと箱で売っていた。買った。後でそれを半分相方におすそ分け。
「ごめんね」と、相方が元気な顔を見せた。役所から職員さんたちが言われたようだ。外泊はいいが、人を連れてきてはいけないと釘を刺されたようだ。そこは秘密のアジールなのだ。これからは引っ越しまで入れない。その引っ越しも少し待つことになる。生活保護の申請が決まらないと動けない。娘がそれは言っていた。相方にも娘から同じことを言ってきていた。それと、娘のメールでは、三日後に東大付属病院に母親を受診させるから、そのまま入院となれば、問題は解決するという。それも判らない。はきはきと返答し、仕事もすると相方が医者に言えば、入院措置まで必要がないと判断するだろう。それでも通院し、薬を飲んでくれたらいいのだ。医師の診断書も年金をもらうためには必要だ。本人は、病院に行く予定があるからと、わたしにも言っていた。よかった。ようやく受診する気になったのだ。この際、健康診断してもらい、悪いところは診てもらえと言ってやる。
 元気になった理由がある。盗られた荷物が出てきたという。押し入れの奥に入れたケースから出てきた。娘が引っ越しの手伝いのときに、食器と靴をいままで入れていたケースから出して移したので、なくなった、盗られたと被害妄想が出て、異常になったのだ。けろりとして、引っ越し業者にも役所にも朝のうちに電話して謝ったという。いままでもなくなったものはそのうち出てくるのだ。盗られたとうるさいので、わたしは、みんな捨ててしまえばいい。裸で生活したら何も盗られるものはない。誰かがストーカーするなら、無人島に二人で行こう。そこで裸で生活したら、怖いことは何もないと、うるさいから冗談でよく話した。


 飯でも喰おうと、駅まで戻る。救急車を呼んだマックでアイスを食べる。マックのスタッフの女性が、「もう大丈夫ですか?」と、親切に聞いてくる。三日前のことだ。娘からもわたしがメールで教えた救急車の話をされたというが、相方はよく覚えていない。記憶にないの? 血圧も測ったろう。あのときは、おかしくなっていたから。と、自分がおかしいと初めて口にした。
 駅周辺は飲食店がいろいろとある。バーミヤンに入る。中華料理のカジュアルレストラン。そこでランチとドリンクバーで3時間もいた。機嫌がよくなった相方は、いまのところに決定が降りるまでいるという。わたしもそれがいいと同意した。監視はあるが、見守られて安心だ。管理人さんも別にいるしセキュリティはちゃんとしていて、部屋も建物も綺麗で、なんでも揃っている。ただ、三か月しか住めないので、一時的な緊急避難場所なのだ。DVやストーカー被害の女性たちもそこに駆け込む。東京都は至れり尽くせりだ。千葉に住民票は移さないで、都民でいたほうが手厚い福祉を受けられる。
 引っ越しのレンタカーは昨日のうちにキャンセルした。一人で大丈夫というから、仕事休みのときには、たまに会って、温泉に連れてゆくと言った。仕事も探すという。バイトぐらいならいくらでもある。金はあるのか? 役所でも貸すという。都営バスと地下鉄は無料のパスをもらったので、交通費は只になる。生活保護がいいか、仕事をしての自立がいいか、悩むところだ。病院の受診もひとつの答えになりそうだ。
 これからは振り回されないように、静観していよう。


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