コロナノコロ

コロナ生活から思うこと

歯下ない

 歯の下がない。だけど、前歯だけは差し歯もあるから上下は揃っている。笑って歯がないほど貧相な顔はない。わたしの友人で、金がないから歯医者にも行けないと、もう何十年も前歯だけでなく奥歯もないやつがいる。どこで咀嚼しているのか。健康にもよくないだろう。保険で直してもらえば、何万円もかからないのだが、仕事で忙しいと、歯医者に通うのが大変なのだ。歯医者に行っても、サラリーマン風の男性はあまり見かけない。主婦や老人、子供だけだ。歯医者は予約制で、一度通えば半年や一年と長くかかるので、とても企業戦士なら行っていられない。みんなどうしているのか。
 相方のことを書く。彼女と6年前に出会ったときには、彼女の前歯がよく外れた。差し歯が取れたのだが、生活費もなくて、仕事にも行かず、着物を売ったりして引きこもっていたから歯医者どころか飯も食えないありさまだった。話をしていたら、よく前歯が外れて床に落ち、みんなで探して笑った。一緒に暮らすようになってからも、わたしも歯医者に行かせてやりたいが、面倒を見るためにパートで働いても年金も少なく、歯医者代まではなかった。そのまま東欧旅行に二人して出かけたり、東南アジア三か月の周遊をしたりと遊んではいたが、歯のことは頭になかった。本人も瞬間接着剤でつけて我慢していたからだ。
 ラオスに行ったとき、歯がよく外れて、飯も食えないので、二人して瞬間接着剤を探して歩いた。ルアンパバーンの世界遺産都市で、文具店もなく、スーパーも小さいのがあるだけ。ようやく暗いごちゃごちゃとした市場で工具などを売っている店で見つけた。だけど、そんな毒かもしれないものを口の中につけるのはどうか。シンガポールでもよく外れてトイレから出てこない。バンコクに戻って、日本語が話せますという歯医者をネットで見つけてわざわざ行ったが、歯医者は、応急処置はやりませんと、治療を断った。仕方なく、帰国してしばらくしてから、ようやく生活も安泰したとき、彼女が自転車で見つけたという祐天寺の歯医者に通うことになり、上下、きちんと保険だが、部分入れ歯ではなく、ブリッジで入ったのだ。せっかくの美人の顔が歯がないおかげではしたない。今度は笑ってもいいよ。


 そういうことを歯医者にいま通院していて思い出した。わたしの下の折れた部分入れ歯を作り直すために、稲毛駅前の大きな歯医者に通うことになる。千葉県で一番大きいとか。医者が10人に歯科助手や技工士合わせて50人いるというから規模は大きい。ネットの評判も見て行った。高いチタン合金なら長くもつというが、保険でいいとプラスチックにしてもらう。毎度のごとく歯垢を取り、歯周病の検査。わたしの場合は去年治したから、虫歯はないし、歯周病と言われたこともない。それで早い。型取りして、11月に入ると下の部分入れ歯ができてくる。
 舌の内側の歯茎がぽこんと盛り上がっている。骨が変形して瘤になっているのは、骨隆起というのだそうだ。それが三つもわたしにはある。それを回避するようにして入れ歯を作るが、強度が落ちないようにプラスチック部分を肉厚に盛るので、最初は違和感があるかもしれないと言われた。どうも、そういう骨が隆起する人は噛む力が強いのだとか。もし、それが割れたら直してあげますと、なんとか五年もてばいい。今度は硬いものは食べないようにしよう。歯がみして頑張らないようにしよう。入れ歯も限界はある。大事にしようと思う。
 ※たまたま図書館の新刊を読んだら、『歯身一体』という宮野さんという歯科技工士の書いた本で、現在の歯医者のことがなんとなく判った。技工士さんも人の倍働いても少ない収入で成り手がいないのだとか。それで粗雑な仕事になりやすい。入れ歯のポリグリップなどは使わないほうがいいとか、噛み合わせで体のあちこちがおかしくなると、そう説いている。インプラントも反対だと、その理由が書かれていた。わたしも右側ばかりで食べていると歯医者にも言われた。今度から交互に噛むようにしよう。

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