コロナノコロ

コロナ生活から思うこと

楽園の退屈

わたしの老後は南の島で暮らすことと、ずっと若いときから描いてきた夢なのだが、このたびの島の滞在で脆くもその夢は崩れた。現実は厳しい。いろんなことがある。なにより退屈なのだ。そんなところに何年も暮らせるだろうか。いまの神奈川での生活では、行くところがいっぱいあるから、老後の暇つぶし散策には困らない。東京も千葉もそうだった。いくらでも訪問先はあった。わたしの訪れたこのたびの来間島は一周6キロの憧れの珊瑚礁の海に囲まれた島なのだが、歩いて2時間で一周できる。毎日散歩していたら、もう見飽きるだろう。なにより刺激と変化がない。たまにやってくる台風で、がらりと変貌はするが、それは刺激というより災難だ。自分の性格からして、ひとつところにじっといるのは耐えられない。毎日が刺激的で変化に富んでいないといけないのだ。ゆっくりのんびりとした老後もいいが、それは拷問で苦痛でしかない。
 アジアに旅行して、アルカディアを探していたときも、いくつもの島に一週間ずつ滞在してみた。ランカウイ島、ペナン、サムイ島、ラブアン島と、それは一週間だから楽しかった。一年いたらどうなるのだろうか。飽き飽きして、どこかに行きたくなるだろう。
 来間島と宮古島ではいろんな人たちに出会った。旅人なのか宿の人なのか分からないくらい、ずっと長期滞在している人たちがいた。一人はわたしより年下で50代の男性か。仕事は釣り船の船頭さんだが、いまは観光客も釣り客も減って、稼げないので、休業して島に来ていたのだが、ひとつのホステルに三月からいるというから、四か月もいるのだ。金はあるのだろうが、宿代も長期滞在で安くしてもらっても、アパートを借りるよりは高い。飯もスーパーで買ったり、近くの食堂は安いから、400円で食べられるし生ビールもジョッキで300円と良心的な店なので、毎日飲みに行っているという。それぐらいしか楽しみはない。島の住人は160人なので、もう名前も覚えたろう。何がよくてここにいるのだろうか。
 もう一人の学校の先生を三月に辞めて、この島に立ち寄って、もう二か月も住みついている金髪の30代後半くらいの女性もいた。何があったかしらないが、教職が厳しいので、ほとほと嫌になり、転職を考えていた。いい仕事がないかと。その間、どこかで静かに暮らしたいと、この島に出会い、ずっといる。一人で都会生活は淋しい。ここのホステルなら、宿のおやじも優しいし、出たり入ったりする客もまたいい人ばかりで、話し相手になる。島の住人も素朴でいい人ばかり。いまは彼女は休息が必要なのだ。そういう意味では、島にいる滞在組はこの生活は療養なのだろう。疲れて、なんらかの理由で都会から逃れて隠れ住んでいる。
 わたしも島を渡り歩く老後もいいなと、小笠原諸島に短期間で住める物件がないかと調べたり、沖縄に行ったときも賃貸物件を見たりした。2万円くらいの部屋はいくらでもあった。それなら東京で暮らすよりは安く、老後の年金生活はできる。郷里の青森でも結構ワンルームでも高い。どこか安く快適に暮らせるところはないかと探していた。
 宮古島では、コンドミニアムに三泊したが、それで一泊は1700円ぐらいだった。広い1LDKで、平塚のマンションの3倍はある。家具家電食器に調理道具、洗剤やシャンプーなどの消耗品もついている。テレビもワイファイもある。そこなら、長期滞在なら月に5万以内にできそうだ。テレビの受信料もいらないし、掃除もしてくれるしシーツやタオルの洗濯もしてくれる。光熱費はかからない。ワイファイだけでも契約すれば月額3千円はかかるだろう。着替えだけバッグに詰めて引っ越してきたらいい。
 東京のワンルームで暮らしたときは、千駄木と目黒と千代田区であったが、家賃は8万近かったし、それは年金だけの生活ではできない。光熱費も月に1万円近くかかった。共益費も別に数千円かかった。交通費も買い物してもかかった。とてもすべて込みで5万円では生活はできない。それが、ここ宮古島ではできるのだ。沖縄本島も物価は安いから2万円くらいの部屋で暮らしたら、十分な生活はできそうだ。地方で暮らすというのはそういうことで、安く自然の中で暮らせること。ただ、北国では冬の暖房費がかかる。札幌に三年暮らしたときは、どこの会社でも暖房手当というのが別に支給されて、8万から14万くらい給与に加算されていた。灯油はそれでも足りないくらいかかった。10月からストーブを使って5月まで使うのだから、一年の8か月は暖房が朝晩必要だった。
 南の温暖なところではストーブがいらない。夏の冷房はかかるが、たいしたことはない。水道代もあまりかからないのは、風呂に入らないからで、シャワーしかなかった。島では水は貴重だろうから。それでなくてもわたしなら毎日海で泳いでいるから、そこが天然の湯舟みたいなものになる。
 生活費は助かるが、問題は先に言った退屈だった。バイクはレンタルで月額3千円で借りられるところもあるから、バイクで沖縄本島を駆け回るのは広いからまだいいが、小さな島ではその必要もない。歩いてもしれている。わたしのように一日10キロ、20キロはウォーキングすると、十日もしないで、全部見てしまうのだろう。人口も少ないのはコロナの感染も少なくていいかもしれないが、あまりにも少なすぎる。離島では感染者はいないらしく、みなさんノーマスクだった。久しぶりにマスクをしない生活を送った。それでも宮古島などの市街地に買い物に行くときは、全員が車に乗るときにマスクをしていた。人のあまり住んでいない島で密になることがない自然の中はいい。
 毎日が旅の連続のほうがいい。どこか島でも固定されるとわたしはきっと苦痛になるだろう。そのことを痛感した今回の旅だった。


×

非ログインユーザーとして返信する