コロナノコロ

コロナ生活から思うこと

南島小記 5

 ウイークリーマンションといっても、一週間借りなくてもいい。一日でも借りられる。初めてそんなところに泊る。海外ではコンドミニアムには何度か泊まった。安いだけでなく、普通のマンションで、当然ながらキッチンに食器からなにからついていて、自炊生活ができるのだ。行ったところはレンタルバイクやボートなどを貸している会社で持っているマンションで、そこの二部屋を男性専用で貸していた。当日はわたし一人で、貸し切りだ。まずは部屋に入る。1LDKの部屋が二つあり、ひとつはベッドルームだが、二段ベッドにわたしだけが寝る。応接セットよりない無駄に広いリビングルームもある。もうひとつの部屋は共有スペースで、テレビにソファ、四人掛けのダイニングテーブルに冷蔵庫、洗濯機、電子レンジ、IHヒーターとなんでもある。バスタブはないが沖縄はどこもシャワールームのようで、風呂に浸かる習慣がないのか。フリーWi-Fiはいまどきはなければならない。室料は一泊で1800円と安い。三泊頼んだ。最終日に天気がよければ下のレンタルショップでバイクを借りようと思った。一日借りて1800円と安い。島をそれで一周しようか。
 冷蔵庫に食品を入れて、大きなテレビをつけてみた。停電になったらと、テーブルの上にはライターと防災用キャンドルが置いてあった。それと台所にはカセットコンロも用意されていた。ここなら暮らせるか。広いし快適だ。スーパーがすぐ近くにある。ダイソーもその二階にあった。
 今朝のホステルのおやじさんから、メールで、こちらは停電になりましたとあった。近くのマンションなのだが、非常電源があるのか、こちらは大丈夫ですと返信したら、なんといいタイミングで移りましたねと、返事が来た。思えば、来間島封鎖1時間前に宮古島へとタクシーで逃れてきたり、昨日泊まったホステルからも移ってきて、本当についている。いまごろは二つのホステルはみんなどうしているのだろうか。電気が使えないで暑いだろう。それでシャワーも使えないと大変だ。トイレも真っ暗で充電できないとスマホもダウンだ。
 台風はどうやら進路を見たら宮古島直撃のようだ。勢力を伸ばして950ヘストパスカル、最大瞬間風速は60m、いまでも30mの強風で、部屋のドアを開けたら、閉めるのが大変なくらいだ。買ってきた食糧はカップに入ったビビンバとかカレー飯とか、お湯を注げば食べられるというもの。初めて口にする。パンは売り切れなので、沖縄のスナック菓子をいただく。栄養ドリンクやミネラルジュースなども買いこんだ。
 暴風圏内に入るとすごい音が天空を駆け巡る。台風の体験はないわけでもない。青森にはあまり来ないが、平成3年9月のりんご台風では、風速59mを体感した。早朝に古本屋の木造家屋が揺れた。並木が折れて、うちの看板にはブロックをいくつもくくりつけていたのが通りに吹っ飛んだ。それは危ないと、人も歩かない通りだが回収しに外に出たら、風圧で歩くというものではなかった。しがみついていなければ立ってもいられない。
 そんなことも思い出した。LINEで姉妹や息子に状況を伝えた。旅行に行ったことは知っていたので、安心させた。堅牢なマンションと食料と電気があればなんとかなる。
 翌日は一歩も外には出ない。雨嵐で出られるはずもない。テレビで今日のオリンピックの開会式までの様子を見ていた。まだ警備員の仕事をしていたときは、コロナがなかったら、オリンピックの警備に駆り出されていた。人が足りないと業界に国から要請が来ていたが、どこも人手不足でそれどころではなかった。
 昼に一時静かになる。風もやんだ。おかしい。すると、スマホに情報が入り、宮古島が台風の目に入ったと。窓から空を見上げた。台風の目だけはぽっかりと青空と思っていたが、やや明るいが白く曇っている。その台風の目がそれから半日近く居座る。台風は停滞し、まるで宮古島を目の中にして、進まないのだ。他の旅行者たちもそうだろうが、わたしは空を見上げて、おい、サボるなよ、ちゃんと仕事して前に進めよ、と、文句を言っていた。
 オリンピックの開会式は長く退屈で、途中でテレビを消した。それより眠たかった。暴風で夜中ほど眠れない。
 翌朝になると、航空会社から返金しましたとメールが入った。ということは明日の飛行機も飛ばないということか。欠航の通知もなく、いきなり返金とはなんだと、不親切に怒る。何度電話しても出ないし、チャットも混んでいるようで出ない。どういうふうになっているのかぎりぎり当日の朝でなければ解らないでは、こっちの予定が立たない。それで保険のように、いまのコンドミニアムをもう一泊追加した。宿を確保したら、次はそのまた翌日の飛行機を予約して席が取れた。出るのか出ないのか解らないのが困る。明日でも天気予報では強風が吹くとあった。20から30mの強い風が残ると。それならどっちでもいいようにしておこう。明日飛行機が発ったら乗ればいいし、欠航でも翌日の便を抑えて宿も心配はない。その判断は今夜だろうか。
 夕方、ようやく強風も強い雨もなくなり、外は平静に戻る。嘘のように静まり返っていた。


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