コロナノコロ

コロナ生活から思うこと

便りのないのはいい便り

 ひらつか七夕まつりは中止になったが、先々月に相方がそれを見たいと、遊びに来ることになっていたのだが、5月から連絡がとれないでいた。メールの返信もなく、電話もない。何かあったのかと思うが、そっとしておく。外反母趾で右足の手術をするため東大病院に入院する予定が6月初旬からのはずだった。三週間の入院予定はおかしいと思った。長すぎる。わたしが股関節の手術をしたときでも二週間の入院だった。足先の骨を削るだけでどうして三週間なのか。そこに何か策略を感じていた。
 相方は去年の秋から東大付属病院の精神科に通院している。シングルマザーでいたときの若いときから何度もストーカー被害に遭い、それがPTSDになって被害妄想でずっと苦しんできた。娘の話では、まだ娘が小学生のときに、誰かが屋根に上がって部屋に侵入しようとして警察に連絡したことがあると証言していた。そんなことがたびたび続いた。別れた旦那も外科医であったが、別れた後からもたびたびの無言電話があったという。それが彼女を狂わせた。
 医師の診断では妄想性障害ではないかと言うのだが、わたしは二重人格もあるし、思考が過去の一時点で停止してそれから空回りしているし、自分がしたことを分からない欠如した部分があることで、統合失調症ではないかと思っている。いずれにしても、20数年も放置してきた精神病を自分では認めず、頑固に治療を拒んできた相方が、去年から娘の説得で通院することになったのは進歩だった。それでも長く放置してきたのと年齢から、保健所での相談でも治らないのではないかと言っていた。わたしも図書館でありったけの精神医学の本を借りて読んだが、そのことが書かれていた。普通は若い人がなるのだが、治療をすれば治る人もいるが、相方のように中年になるまで放置していると難しいらしい。
 一人娘が都内で働いて一人で暮らしているが、彼女とわたしは密かに連絡を取り合って、二人で保健所に相談に行ったりしていた。秋にあまりにも悠長にしているので、このままでいいのかと娘を怒鳴った。なんとかしろと。すると娘は電話で泣きながら、本腰を入れて、東大付属病院に診察に相方を連れてゆく。区役所に生活保護の申請もしていた。それまで5年少しわたしが生活の面倒を見てきたのだが、とても耐えられなくなって別居していたのだ。それでも心配だから、月に一度はランチをしたりと様子見をしていた。次第によくなってきていると判る。ただ、被害妄想は治らない。都心のマンションに行ってみたら、防犯カメラはもうつけていなかった。わたしと一緒に暮らしていたときは、二つもつけていた。ドアの鍵もいまは別に取り付けていない。かつては三個もつけていた。さらにドアの内側にバリケードを組んだりしていて見えない外敵の侵入を防いでいた。


 保健所の相談日に、娘と保健婦さんとわたしとで、どうしたらいいかと話し合った。本人はなんとしても入院しないというだろうから、アルコール中毒の検査入院ということにしたらどうかとか、それとも強制入院させるに民間の救急搬送の会社に手配するとかと、いろんな方法を話し合う。それにしても搬送に何十万もかかるようだし、入院費用は高額医療でも月に10万円近くもかかるのをどうするのか。娘はその費用面を心配していた。わたしは立て替えてやってもいいと話した。それで一番いいのが、医療費のかからない方法として生活保護の申請だった。いままでも働いても続かないし、とびとびでバイトはしていたが、生活はぎりぎりかつかつで娘もいくらか補助していたのか。わたしも用立てていた。
 連絡がないというのは、外反母趾の手術で入院したので、このチャンスと、精神科の治療もしたのではないかと思う。それも娘の同意があればできる。ネットで調べたら、いまは過去の記憶を消去できる薬がいろいろと出ていた。東大はPTSDの治療の研究では一番で、マウスを使ったそのスイッチが分かったと、今年の2月の研究成果がネツトに出ていた。次第に精神病が解明され、投薬で治る方向には向かっていた。連絡がとれないのではなく、きっと薬で嫌な過去を消されたのではないかと思った。それで新しい人間として生まれ変わる。過去の忌まわしい事件事故などで恐怖体験がフラッシュバックしてくるPTSD患者には、記憶喪失も治療のうちで、それを消し去ることのほうが本人にとっては楽で幸せなのだ。もしその治療がされていたらどうなるのか。
 過去が消されると、わたしの名前も顔も忘れる。約束なんか思い出せない。それでもいい。そのほうが本人のためなのだ。いい思い出も悪い思い出も一緒に忘れてまた明日に生きるために、一旦リセットすることも必要だ。
 今度、逢うこともないかもしれないが、もし、どこかで逢うことがあったら、わたしを見て、初めましてと挨拶するのだろうか。わたしもきっと初めましてと、にっこりと微笑もう。

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