コロナノコロ

コロナ生活から思うこと

東北返路 1

 東北に旅行に行く。なんだかおかしい。まるで自分のふるさとに向かって帰るような旅なのだ。それでも今回は三泊四日で、大人の休日倶楽部の四日間のフリー切符を買って、東日本JRが新幹線も乗り放題で15000円と、年に何回か期間設定して発売される。前はミドルコースでそれで随分と旅した。いまはシニアになるとジパングでさらに安くなり、どこに行っても3割引きで切符が買える。
 久しぶりに東京駅に立った。いつも通勤で乗り換えていた東京駅も千葉から引っ越してからは来ることもなかった。早く着きすぎて、地下のコンコースにあったアンデルセンでコーヒーとディニッシュをいただきながら時間を潰す。10時前にいわき行の特急ひたちが発った。がらがらで半分も乗っていない。みんなビジネスマンのようだ。緊急事態は解除されたが、やはり旅行に出る人は少ないのだ。
 本はホームで待つときは読むが、車内では読まない。景色を見ないと勿体ない。子供のように、車窓にかぶりつく。流れる風景を見ているのが好きなのだ。安心している。静止画は不安で動画でなければ子供のときからおちつかない。旅好きの性癖はそこから来ている。
 常磐線なんか、いままでもかなり乗った。学生時代も青森と上野間を走るのに3通りの行き方があった。東北本線は特急はくつるとはつかりだ。急行は十和田があった。奥羽本線経由は日本海側を走る寝台特急あけぼの、津軽というのもあった。常磐線経由で寝台特急ゆうづるだったか、仙台から青森へと走る電車もあった。
 どこで降りるか、まだ決めていなかった。一日目の宿はいわき市のホテルだったが、そのまままっすぐ行ってもすることもない。それで途中下車のいいところがないかとグーグルマップと睨めっこだ。それで出てきたのが、わたしの行ったことのない五浦海岸だった。前から行ってみたいと思っていた。どうせ、雨だから、寒いし泳げないだろうが、そこは天心美術館もあるので、雨でもいい。行き方を調べる。特急では停まらない駅だったので、その手前の磯原で降りて鈍行を待った。それで次の駅、大津港駅で降りた。さて、歩いては8キロくらいありそうだ。バスを見たらその方向にないし、あっても二時間か三時間に一本だけ。仕方なくタクシーにする。どうですかと運転手さんと話す。観光客はさっぱりで、コロナの影響は受けているのは同じ。途中の温泉も潰れていた。それでも千円くらいで岡倉天心五浦美術館に着いた。広くて大きい。企画展もやっていたが、常設展だけを見た。高齢者割引でたったの90円。申し訳ない。30分で回れるくらいの展示品よりない。ビデオも見た。天心公園が、わたしの住んだ谷中きんざの近くにあった。天心はそこにも暮らしたのか。公園には六角堂が建っていた。模したものだろう。上野も自転車でよく買い物に行ったので、近いのだ。天心はいまの芸大を作った。それと日本美術院。それで横山大観や菱田春草などと共に、ここ五浦に制作の場を設けて、大作を描いた。
 美術館の裏から細い道があり、日本美術院研究所跡だけがあった。そこから歩いて六角堂へ。天心の家もあり、「亜細亜ハ一なり」の石碑がある。六角堂は小さい。風光明媚な崖の上に建つ。それも3,11の大津波で流されて再建されたものだという。ちょうど、その場でスマホで写真を撮ろうとしたら、スマホがおかしくなり、いじくっていたら、いきなり防災情報が画面に出た。福島で地震、津波発生と書かれている。なんだと? 慌てて沖を見る。いつ揺れたのか。こんなところで津波が来たらひとたまりもない。すると、その警報の日付が、今年の2月何日とある。なんだ、過去のものが何かの拍子に出たのだ。驚かせやがって。
 そこから五浦岬公園に行こうと歩いたが、灯台は見えているのに行き着けないで、ぐるぐると回っていた。標識がないので不親切。諦めて帰る。腹も減った。途中の魚料理専門の旗で、小綺麗なドライブインに入る。焼き魚も煮魚も刺身定食もいらないなと、魚喰いでないわたしは仕方なく天丼にするが、その海老天もでかい。大きな海老もいらないのに。
 歩いて駅まで帰る。途中に、風船爆弾を飛ばした場所という碑が建っていた。こんなところからアメリカに向けてジェット気流にのせて飛ばしたのか。それで三人の兵隊が誤爆で死んだという鎮魂碑もあった。それにしてもどこに落ちるか判らないから怖いが、無駄なことを軍隊はした。
 歩いていると農産物直売所もあった。それも安いが、まだ旅の初日に大根や南瓜をリュックに歩くのかと、見るだけにした。
 ようやく駅に着く。無人駅で改札もない。パスモは使えるようだが、いいのかフリー切符だから。次の停車駅は泉だった。そこからは歩いては無理だろう。海まではかなりある。小雨も降っていた。それでともかく、素泊まりだが、晩飯と朝飯は買わないと。遠くにヨークベニマルの看板が見えたので行ってみる。スーパーでいろいろと買う。その向かいのスーパーも覗いてみる。駅前からタクシーで今夜泊まる小名浜オーシャンホテルへ。タクシー代が2300円を超えた。これなら往復すれば、ホテル代より高くつく。ホテルは海辺の断崖に建っていて、大きなホテルだ。ゴルフ場があって、どちからかというとリゾートではなく、ゴルフをする人のホテルなのだ。プールも期待したがない。チェックインすると、ゴルフはなさいますかと聞かれた。ゴルフなんか大嫌いで、ヘタクソなのだ。若いときには仕方なく仕事のつきあいで覚えたが、あんなもの、二度とやるか。ワンホールで28も叩いた記録保持者だ。自慢ではないが200を切ったことがない。人の倍以上走った。キャディも見放して先に行くし、後続のプレーヤーからは早く行けと睨まれる。クラブもすべて売った。
 風呂に入る。露天風呂から海とひょっこりと顔を出している岩が見える。風呂もなかなかいい。小名浜温泉なのか。貸し切りのように一人だけ露天に入っていた。部屋はツインルームで広い。晩飯はスーパーで買った寿司で。テレビの天気予報が東北6県で、わたしの故郷が出る。そうか、もう東北なんだ。来るとき勿来の関を越えたらそこはみちのくだ。内陸では白河の関で、奥の細道なのだ。今日もよく歩いた。歩き疲れてベッドでこてん。


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