コロナノコロ

コロナ生活から思うこと

犬も歩けば文学散歩

 東京は30度越えて真夏日という。湘南はいくぶん涼しいがそれでも27度。部屋は熱気が籠っている。ベランダより窓がないからだ。それで、風の通りを作るため、ドアを少しだけ開けておく。それでもエアコンはまだ使っていない。扇風機だけ。
 部屋にいたら汗ばかりなので、ペットボトルにお茶を詰めて、シートも持って、海水パンツも掃くと、さあ、海で泳ぐかと、今年の初泳ぎでビーチまで歩く。海水パンツはバーミューダみたいに長いから、そのまま街中を歩いても判らない。
 また途中にある八百屋を覗いた。なんでも量がありすぎる。小松菜もひと束でもいっぱいあって多いのが三束で百円だ。そのうち野菜ばかり食べていると、ウサギになるな。それできゅうりとトマトが安いから買う。こういう八百屋が平塚はあちこちあって楽しい。
 途中に公園があったので、ひと休みと、ベンチに座って本を開いた。隣に何やら石碑がある。見たら中勘助の文学碑だった。先日、中勘助の随筆を読んだら、平塚のことが書かれていたので、ここに住んでいたのだ。詩碑で、「しずかに時の過ぎゆくのをみるのはしずかな流をみるやうにしずかである」と刻まれている。そうか、あたりまえすぎて面白くもない。他にいい詩がなかったのか。中勘助はこの近くの龍城ケ丘に大正13年から昭和7年まで9年も家を建てて住んだ。平塚の浜辺を歩いて詩作と思索をしたのだろう。『銀の匙』が代表作だが、全集は17巻もあるのに、わたしは何冊読んだろうか。漱石門下でも目立たない。
 そこからすぐが海だ。家から歩いて26分。2キロ以上はある。天気はいいが、そんなに暑いという感じはしなかった。海水に足まで入ったが、冷たい。サーファーも波があるのに誰もいない。釣り人だけだ。シートを砂浜に敷いて、日焼け昼寝。気持ちがいい。海水パンツ一枚でねそべる自分の恰好は、遠くから見たら、豚の解体ショーみたいか。足だけ入ったが、もう少し暑くならないと泳ぐのは無理か。
 そこでも本を読む。持ってきた緑茶をぐびくびと飲む。波の音が聴こえるが、それは左から右へと流れるような。きっと打ち寄せる波が左から右へなのだ。ステレオを聴いているような潮騒の音楽。それから砂浜の貝殻と流木と珊瑚の欠片を拾う。うちの玄関の棚に飾って、海のオブジェと作品にしたい。
 次にビーチから住宅地のほうへと歩く。五階建てのアパートがいっぱい建っているが、海の傍はいいが、津波が来たらひとたまりもない。みんな覚悟はできているのだろうな。わたしは、そのために、わざと内陸のほうを探したのだ。ハザードマップでは、海岸は危険地帯なのだ。そのひとつのマンションの入り口に碑がある。見たら小平浪平の別荘があったところという。日立の創業者と書かれていた。そういう別荘はこの辺りにはいっぱいある。
 くねくねと道をあみだくじのように歩いていたら、弦斎通りという道に出た。そこに公園があり、村井弦斎が住んだ邸宅をそのまま公園にしている。わたしは若いとき、村井弦斎藤の『食道楽』を読んだ。復刻も出たが、当時の本はベストセラーで元版がたまに入る。売れっ子作家であった。食道楽は子供でも読める。絵本かマンガのように読める昔のグルメ本だ。弦斎がここの人とは知らなかった。ベンチでしばし休憩。石と松の配置がそれだけで庭園になっている。なんともいい。
 歩いて、また地元のスーパーを見けて入る。お買い得だけ少し買う。クリームチーズが半額だ。そこから駅の南口のマックで休憩。また読書。隣の女子高生たちの会話が面白い。いまどきの女子高生言葉に不明な言語が混じる。翻訳してもらわねば。
 今度は東海道線の北側に出ると、わが家のほうへと歩いたら、旧東海道を歩いていた。そこには平塚という町名がある。平塚市平塚。高札場という案内板があった。だいたいお触れは、人の集まるところだから、ここが町の中心地であったろう。駅寄りに見附跡があったが、江戸寄りの見附で、大磯との境に先日歩いたときにあった見附は京方とあった。宿場町の両端に見附がある。それで江戸時代の町の長さが解った。いまは駅を中心に発展しているが、東海道の宿場はもっと大磯寄りなのだ。
 くねくねと小路も入り、グーグルマップで調べた平塚の塚のある公園に出た。平塚の地名の由来で、桓武天皇の三代孫、高見王の娘政子が旅の途上で逝去し、ここに埋葬されたとある。塚は平たんになり、そこから平塚と名付けられた。墓という感じはしない。由来の石碑と松の木が目立つ。
 その筋向いにある墓にもなにやら歴史の立て札。わたしはどこに旅行しても、そういう教育委員会が出している案内板を読む。江戸の中期に主人の仇を取った烈女お初の墓とある。歌舞伎でも知られているとある。すごい女性がいたものだと感心して拝む。
 ふらふらと歩いてわが家の近くまで帰ってきていた。犬も歩けば棒ならぬ文学碑に当たる。まだまだ平塚は奥が深い。
 


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