コロナノコロ

コロナ生活から思うこと

婚姻届も離婚届もオンライン

 そこまでするかオンラインと、いまはなんでもオンライン。離婚と結婚ぐらい話し合いして二人して役所に行けよと言いたい。だけど、わたしは自分のことを忘れていた。思えば、わたしもそれに近いことをしていた。
 最初の結婚は、郵便結婚だった。いまから45年前だから、インターネットもケータイもパソコンもない。ネットという言葉すら生まれていなかった。そんなときに、大阪から駆け落ちして、名古屋に隠れ住んだ。半年はじっと身を潜めるようにして生活した。見つかれば連れ戻されて、引き裂かれるかもしれない。それで、住民票は、名古屋の北区にある電話帳で調べたアパートの一室に移した。架空の住まいだった。案の定、行方不明になったわたしらを探しに、両親が青森から名古屋に来て、そのアパートを訪ねたと後で聴いた。行ってみたら全然別の人が住んでいたと。そういうところには頭が回った。夫婦としてアパートを借りて住んだのに、仕事先から電話がきたり、手紙が彼女の名前で来たりするから、大家が怪しんだ。それで、半年して入籍することにした。二人で名古屋の栄の宝石店で、指輪を買った。そうして青森の市役所に手紙を書いて、婚姻届は郵送したのだ。そのときのことを詩に書いて「婚姻郵便」と、些少の切手代だけで結婚ができることを軽いものとして皮肉って書いた。いまは、さらに軽くオンラインだ。
 その人と離婚したのは平成に入ってからだが、どこへ行ったか、クラブに勤めてから男ができて、子供らは小さかったが、置いたまま帰らない。人伝に離婚届にハンコを押して送ってこいと言ってやったら、ようやく送ってきた。すぐにわたしは市役所に走った。話し合いは二度ほどしたが、古本屋は嫌い、子供はいらないと、いい生活をしてしまうと、人は変わるのだ。いまは、そのときの愛人の社長と一緒になっているようだ。
 二番目の奥さんのときは、旦那がいたが、もう冷めた関係で、不満があったのだろう。そんなときにわたしと出会った。不倫の関係が半年続いた。彼女は旦那に離婚届を突き付けて、書いてもらうと、さっさと荷物を古本屋に送らせ、小さい子二人の手をとって、青森のわたしのところにやってきた。それから半年以上してから、古本屋の仕事を手伝って忙しい彼女に婚姻届を持ってゆくと、それを快く受けなかった。このままでは子供らが夫婦別姓という言葉もないときで、可哀想だからと、強引にハンコをつかせた。怒っていた。なんでも自分ですぐに決めると。それを合意の上でうちに来たのではないのか。どうも、恋人同士はいいが、夫婦となると抵抗を示す人がいる。喜ぶのが本当だろうが、そのときの様子が後後まで尾を引いたのだ。家に入るという決心ができていないで、いつまでも家と家の間に線引きをしたまま嫁に入ったのだ。市役所に婚姻届をわたし一人で持っていったが、そのとき、窓口の女性が、離婚から結婚まで半年ぎりぎりであったので、指折り数えていたくらいだ。
 その二番目と10数年暮らしたが、今度は嫁と姑が合わず、女房にはいつしか別の男ができて、それでも見て見ぬふりをしてきたが、相手の大学教授に証拠のメールをつきつけて、メールで慰謝料の請求をしたのか女房にバレた。わたしが女房のノートパソコンを買ってやったとき、メールの設定もしてやったので、パスワードは知っていたのだ。それで、二人のメールのやりとりを覗いて、浮気の現場も掴んだ。そんなことはパソコンに無知の女房は知らない。相手の先生から教えられて初めて、わたしが示談にしようと持ち掛けたことを知ったのだ。それでそれを裏切りと逆恨みして、話し合いもなく、向こうから離婚届が送られてきた。それにはハンコも署名もされていない。突き付けるなら、署名ぐらいしろよと、メールでそのことを女房に聴いたら、誰かに書いてもらってと、そんなものだった。それで、古本屋にたまたま来た市会議員の女友達がいたが、彼女に代筆を頼んだら、いいわよと、見たら離婚届なので、キャーと逃げ帰った。その後に、同じ文学仲間の女史が顔を出したので、代筆をお願いしたら、いいわよと、書いてくれた。ハンコは別のわたしのハンコで。するとその女史は、初めて見るから、ケータイで写真撮っていい? と、写真まで撮っていた。飄々とした彼女だからよかった。
 代筆でもバレないので、勝手に婚姻と離婚届がなされていても判らない。そういう人は結構世の中にいるのではないか。それより、オンラインになると、ますますそういう公文書偽造みたいなことが横行し、気が付いたら、いつのまにか結婚させられていたとか、離婚されていたとか、そういう問題が増えてくるのではと心配している。
 うちの息子たちのときは、親の保証人のハンコもいるからと、若い夫婦について、市役所に行った。それが普通なのだ。いちゃいちゃと、仲良く窓口で婚姻届けを出すのを端から見ていていいものだ。


 いまの相方とは事実婚で五年半くらい暮らしたが、わたしらは結婚なんか考えなかった。向こうは、あなたとは結婚はしないと、いまさらのように言うのだ。結婚は家に入ることだから、簡単に考えてはいけないと。年もあるから恥ずかしさが先に立ち、互いに合意で婚姻届のことは考えたこともなかった。年金と、わたしが死んだ後のことを考えたら、入籍したほうがいいに決まっているのだが、それを断固として拒否していた。わたしもそれを勧めたこともない。
 戸籍というもの自体がない国のほうが圧倒的に多い。海外では、神の前で夫婦になることを誓うのだが、日本では紙の前で誓う。それにハンコだ。サインでもいいのではないのか。戸籍もいらないのではないのかと、新しい時代が来ると、オンラインもいらなくなりそうだ。


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