コロナノコロ

コロナ生活から思うこと

ハンコがサインになるのか

 ハンコに反抗していると新聞に書いていた。新しい大臣がハンコ文化に対抗する。ハンコはなくならないとは思うが、それでもだいぶこれからは使用頻度は下がる。その代わり、これからはすべて外国式にサインになる。宅配便がすでにそうだ。受け取りのハンコがなければサインでもいい。
 新生銀行に口座を作ったのは、海外でもおろせるからだが、旅行に行く前に、ネットバンキングなので、支店があまりない銀行を新宿支店まで行って通帳を作ろうとした。ところが、通帳がない。ネットで残高、取引を見てくださいというものだ。ハンコもいらなかった。サインでいい。これからはこういう銀行が増えるのかと、五年前だが、新しい時代の予感がしたものだ。
 わたしのサインは昔の武将たちの花押よりも難解で、読めない。なんて書いたのと、それは日本語かという人まで出る始末。自分で書いた字が自分でも読めない悪筆なのだ。だから、サインなんか誰も真似ができないから、偽せることができない。
 前に本を出したことがあるが、そのとき、署名お願いしますと言われるのが、一番嫌いだった。人に見せる字ではないので、恥ずかしい。まして、そんな有名人でないので、サインなんかいらないだろう。さらさらと、サインする人はどうやら練習するらしい。芸能人はみんなそうだ。きっと、サインを教える先生がいるのだ。でなければ、その辺のアイドルがさらさらとサインができるはずがない。
 わたしも若いときは書道を長くやっていた。習字から始まり、小学生のときは習字教室に通い、高校生の時は一年だけ日展審査員の宮川翠雨先生の指導する書道部に属し、社会に出てからも、会社の書道部に指導に来てくれた小田切半草先生に習う。翠軒流なので、薄墨でさらさらと一口書きするように高い半紙に書いた。一枚200円の半紙なので、失敗すると痛い。先生に手本を書いてもらい、それに倣って書く。書いた字は読めない。人の書いた字も流れるような草書で、源氏物語を原書で読むようなものだ。
 そこまで書道をかじったなら、さぞかしうまいだろうと思いきや、やはり字がヘタなのは、直らない。生まれつきのものもある。習わなくてもうまい人はうまい。どんなに練習してもヘタなのは生涯そうなのか。ペン習字も通信教育で半年やったり、手に持つだけでうまくなるというボールを使ったり、あれこれやってもいまだに職場のみんなに、子供のような字でなく、ちゃんと書きなさいと前の上司にも言われた。仲間からも、一番字が汚いと言われ、かつての経営の先生からは、字は性格と、改める努力が必要と言われた。
 だから、ハンコでいいのだ、サインは怖い。恥ずかしい。わたしはハンコを五つくらい持っている。ひとつは大理石で、親父の遺品だ。もうひとつは実印で、それは印相学の占いの先生が親父の友人で、作ってもらったもの。それから銀行印は少し欠けたが、もう35年も使っている。それと、台湾に行ったとき、九扮の古い町のハンコ屋で作ってもらったもの。そのときは、三男が結婚する年で、二人に結婚のお祝いにハンコを作って贈ろうと、中国に行ったら土産にしようと思っていた。それが台湾になる。わたしの分と三本作ってもらう。水牛のハンコだった。中国語でわたしの名前はムーソンと言うから、そう言って息子たちにも立派なケースに入れて持ち帰った。
 そういうハンコはいまのところ、あまり使う機会がない。認印、チャチハタで足りるし、わたしは仕事では毎日何十回もハンコは押しているのは、学校の鍵を貸し出すときの担当印なのだ。貸して返してと受け取りのときも押す。時間外の勤務報告にも押す。宿直引き継ぎノートにも見たとハンコ、書類にはなんでもハンコだが、ちゃんとした文書はシャチハタではダメで、それは銀行印を押すようにしている。バッグの中にはいつも入っていて、会社、仕事では押すことが多いのだ。それもこれからはサインでいいとなるのだろう。これは、誰が担当したのかと、上司がチェックするときに、読めない字はわたしだとみんなが逆に判る。
 海外でもモロッコに渡るとき、フェリー船上のイミグレで、書類を書いたとき、担当官から、「これは英語か」と聞かれた。英語を書いてもみみずの這ったような、何を書いているのか判読ができないのだ。あちこちで恥をかいてきた。恥と書いてサインとルビを振ろうか。
 外国ではサインはアルファベットをそのまま並べたらダメなのだ。ある国では、ちゃんとサインで書いてくれと書き直させた。すらすらと綴ったサインでなければいけない。そのとき、あれ、筆記体ってどう書くのかと、RやKの筆記体を忘れたりして一瞬考えて相方に笑われた。
 サインコサインタンジェント、英字筆記体もそうだが、高校生のときに習ったものは忘れている。そのうちハンコがなくなったら、ハンコ文化に戻せとわたしは叫ぶだろうか。

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