コロナノコロ

コロナ生活から思うこと

迷宮都市

 通勤で渋谷を通るのだが、それがおかしなことに往復ともに迷うのだ。渋谷は数えられないくらい来ている。迷うはずがないのに、どうしてか、いつものルートでないからか。いままでは買い物で来ていたが、地下鉄半蔵門線で渋谷で降りると、行くところは決まっていた。ハチ公前のスクランブル交差点から、道玄坂か、センター街か、公園通りか、行く店によって、方角が変わるだけで、別段迷ったことがない。ところが、平塚に引っ越して、東横線で横浜乗り換えて通勤するようになってからは、なんと迷って迷路を出られない。
 平塚から朝に勤務先の学校まで東横線を降りて渋谷駅から、歩いて行くのだが、明治通りをすたすと歩いていて、おや、景色が違うぞと、宮下公園の脇を歩いている。山手線が走る。青山通りを歩かないといけないのに、と、方向転換で、脇道の坂を上がつたら、うちの大学が見えた。
 翌日の朝は仕事明けの帰り道。今度は間違わないぞと、グーグルマップをスマホで見て、一番東横線の入口に近いのはどこかと探す。駅の地下に降りる歩道のエレベーターを見つけたので、地階まで下りようと、エレベーターに乗った。行き先階のボタンを押す。エレベーターは動かない。おかしい。もう一度押すが反応しない。停止している時間なのか。開を押してまた外に出る。おかしい。横断歩道橋を渡り、ヒカリエがすぐに見えるところで、ストリームの方へと向かう。そこは前に何度も買い物に来たところだ。東横線も前に目黒で暮らしていたときはよく使った。学芸大学か都立大学の駅で降りていた。だから、別に知らない線でもない。それが、この数年で、渋谷再開発だと、やたらと高層ビルが建ち、都民でも渋谷は複雑になったと言っているくらい迷路になった。わたしも迷うのはおかしくはないのだ。
 渋谷は山手線の他に地下鉄がいろいろと、田園都市線と東横線、井の頭線の東急線も通っている。交通の要所でややこしい。
 ビルの階段から地階に降りてゆく。ようやく東横線と書かれた案内板と矢印が見えた。その方角に歩く、エスカレーターを上ったり下りたり、階段も上ったり下りたりと、歩いているうちに、外に出た。おかしい。まるで狐に騙されたような。田舎では、道に迷うのは狐が悪さをするからだという。この都会にもきっと悪い狐がいるに違いない。同じところをぐるぐると回っていたと、うちの祖母が話していた。津軽の田舎出の祖母は、娘時代に、道に迷い、同じところをぐるぐると歩いていたという。狐に騙されたと言っていた。
 外に出てはいけない。また階段を降りる。そうしたら東横線と書かれた表示板を見つける。全然違う方角だ。おかしいのが、少し離れたところには東横線の別の看板が別の方角を示していた。ややこしい。これで間違えるのだ。統一したらよさそうなものだが、ホームの入口がいくつもあるから、そっちでもこっちでもいいのだろうが、行ったり来たりと、引き返す人も出てくる。それと、おかしな矢印が、斜め上を示している。それはその方角に行けというのが、階段を上がれと思ってしまう。Uターンしろという矢印は判る。斜めはどの方角なのか。普通に右とか左でいいのではないのか。その案内板がくせものだ。
 前に錦糸町で、地下鉄駅をJRの北口で矢印の方向に歩いたら、ぐるりとガード下を潜って、南口へと誘導させられた。バカな。JRの改札口からは南口に地下鉄駅があるのだ。どうして北口に誘導するのだ。そのときは腹が立って、駅の事務室に苦情を言おうと思った。旅人ならみんな間違える。そんな明らかにおかしな案内板が多い。
 渋谷はこんがらがる。この朝は帰りだから、別に急ぐわけではないし、時間にして駅の構内を10分くらいうろうろとしていただけなので、どうということもないが、朝の出勤のときには、遅刻するだろう。ようやく、東横線の改札口まで来る。疲れた。オリエンテーリングをしていたようなものだ。駅別に一番無駄なくショートカットできるルート検索ができるアプリがあればいいのにと思った。自分の位置情報が判れば、駅の地図も出て、その指示通りに歩けば改札口まで短時間でたどり着けるというもの。
 仕事明けで疲れているのに、また疲れる。出られなくなったときは焦った。都会の駅の迷宮から出してくれと、ネズミのように走り回った。それで柱にぶつかり、足を痛めた。痛い足を引きずって、ようやく東横線の電車に乗れたときは、涙が出てきた。悔し涙か、救われた安堵からか。これも後少しなのだ。仕事を退職したら通勤という言葉もなくなる。迷うこともない。人生にも迷わない。行き先はもう決まっているのだから。


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