コロナノコロ

コロナ生活から思うこと

めっきりと寒くなってまいりました

 青森の施設にいるおふくろに週一で書く手紙も四日に一度になる。それほど仕事は暇で退屈だった。雨の日は何もできない。学校の校庭を掃こうにもできない、花壇や芝生の水撒きもいらないし、それが日曜なら、児童も先生も職員さんたちも誰も来ない。工事もなければ、一日。宿直室にいて、テレビばかり見ていてもつまらない。これで給料がもらえるなんて悪いみたいな。
 この日は一番の寒さ。最高気温が12℃と、さすが半袖では出勤はしなかったが、長袖の薄いカジュアルなシャツを着てきたが、道行くみんなはジャケットにコートだ。寒いと震える久しぶりの感覚。大学の正門から入ると、銀杏並木は少し色づいてきていた。プラタナスは青いまま散っている。その異様に大きな葉。
 外の歩道など掃いていると、秋をひしひしと感ずる。落ち葉の数で季節を知るのだ。花壇に散水するときも、植物の顔を毎日わが子のように見ていて、花は萎み、葉は枯れてゆくのを時の流れとして仕事の中で捉えられる。


 おふくろへの手紙は出稼ぎ報告みたいなものだが、できるだけ笑わせようと、冗談を交えて面白おかしく書くようにしている。それを施設に来る人たちに読ませているようで、妹も週一に買い物したりして来るが、笑って読んでいるとおふくろは電話で言う。古本屋の三男もあの一件以来話もせず顔も見ていないが、わたしの手紙を興味深く読んでいるらしい。あのときは、古本屋の資金繰りに行き詰まり、わたしらが海外旅行に出かけるのが癪に触って、精神的に追い込まれているのが爆発したのだろう。いま、すべてが整理できて、サラリーマンをしながら、安定した生活に戻ると、わたしらが尽くしたことで、怒ることはさらさらなかったのに、悪いことをしたなと冷静に思い返しているだろう。わたしは息子と古本屋のためを思って、叱咤激励したつもりだった。自分が一人で古本屋を何十年もしてきたことが息子にできないわけはないと、人任せで店から逃げていた息子をなじった。ペンの仲間も店をよく訪れて、女子社員をリストラするときは、呉服屋の親戚は、やめさせるのはあんたのほうだろうと、息子に言って、女子に、あなたが社長をしたらいいと、冗談交じりに本音を言った。周囲から見ても歴然としていたことだが、わたしには解っていた。息子は本が嫌いなのだ。それを跡取りにしたわたしが悪い。息子は東京で借金を作って、逃げ帰るように青森に戻った。その借金を清算してやったのは父親としては当然だが、そのとき、古本屋を手伝わせなかったらよかった。わたし一人で創業して、最後までやればよかった。そうしたら、ビルも買うこともなく、予定では65歳で古本屋は畳んで、すべての在庫は東京のセリに送って売りつくす。旅行資金はかなり残るだろう。55歳のときに、10年後の姿を日記に書いていたが、その筋書きはそうであった。ただ、誤算なのが息子が帰ってきたことだった。わたしの計画は変えられないと、息子が代表をしたいというので、ハンコと通帳を渡して、それから引き継ぎで何年かしてから、わたしは逃げるように上京してきた。人生とは思うようにはいかないものだ。もうひとつの誤算は、相方と出会って同居するようになったことだ。まさか、老後にずっと放浪しようと思っていたのが、いまだに仕事をしているとは、計算が狂っていた。


 それはそれで、どっちも面白かった。全然悔いはない。すべてが順調で予定通りというのもつまらない。どこに行くのか明日が見えないほうがスリリングでいい。
 人の生涯を四つの季節に分けて、青春・朱夏・白秋・玄冬というが、それが現代では、長生きするようになって、白秋とは75歳までというらしい。それ以上が玄冬なのだという。ならば、わたしの場合はまだ秋なのだ。ようやく人生の7割を通過するところだ。これからまだまだある。老後だなんて言うなよと、別の自分が叱る。それでも秋も寒くはなる。唇も寒いのは、話し相手がいないからだ。それを通信玩具に頼る。ブログと詩で発信する。仕事はだから辞められないで続けているのは、どこかで社会と繋がっていたいと思う、すがる気持ちがあるからだ。まだ仙人にはなれない。放浪の旅にはそのうち出るが、踏ん切りがつかないのは、相方という切れない人がいるからだ。マンションから出ないと、まずはどうにもならない。管理会社に電話で申し入れたら、「あの、もう一人の女性の方は?」と、恐る恐る聞いてきた。「はい、一緒に出ますよ」と、言ったら、「よかった」と、ほっとした言い方に笑う。なんだったら、置いてゆきますから、面倒みてくれませんかと、言ったらどういう態度をしたろうか。管理会社にも随分と相方は電話を入れたりして困らせていたのだろう。


 そろそろ衣替えか。長袖を出してきて、半袖は仕舞おう。水中メガネとスノーケル、海水パンツもさようなら。夏はコロナのせいで本当にかすったように去ってしまった。エアコンも今度は暖房に切り替えだ。まだ10月半ばなのだが、世間では秋なのだ。



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