コロナノコロ

コロナ生活から思うこと

誤報を待ちながら

 宅配便からわたしのスマホに電話が入った。荷物の預かり期限が18日までで、配達の日にちと時間をお知らせくださいと。女の人の声だった。今日はおります。夕方の4時6時にしてください。と、そう返答した。仕事明けで、駅前のジムでトレーニングもしてきて、疲れていた。昼飯はあるものを減らさないといけないので、ザル蕎麦を作る。食べたら眠くなって、ベッドに横になっていたときに電話が来た。寝てもいれられないと、起き出して、出かける。明日は図書館が休みなので、また駅のほうへと歩いてゆく。
 図書館は暇でよかった。本が本を呼ぶ。読んだ本の中に書かれている本を読みたくなり、メモしておいた。ミケーレ・ザネッティの岩波の本とメイ・サートンの『今かくあれども』、そして太極拳の本など10冊をパソコンで調べて、他の図書館から持ってきてもらうよう予約した。これが最後の予約だろうか。引っ越しまで二週間もない。
 座る椅子が空いている。平日の昼過ぎは高齢者も少ないが、それでも新聞はみんなが読んでいて、読み終わるのを待つよりない。稲毛の図書館にはもう何回も来られないだろうから、文庫本の棚をこの一年少しで借りまくり、単行本へと進むが、もう、順番はどうでもいい。読みたい本をあちこちの棚から選んだ。音楽CDも2枚より借りられないので、端から聴いたことのないクラシックを順番に選ぶこともない。ギター曲集と無言歌のピアノ曲集にする。
 借りたら、座席を確保して、新聞の返したものから読み、週刊誌も4冊読む。新刊コーナーも覗く。『東京脱出論』というタイトルで手にとる。藻谷浩介と寺本英仁の田舎暮らしのススメ。都会とどちらがいいのかという比較文化論みたいな。図書館に行ったら、新刊も読みたい本はその場で読んでゆく。そうして二時間くらいはいるが、宅配便が来るので、ゆっくりもしていられない。
 一日が雨だった。この朝は退職願を出してきた。会社の上司から頼まれて、5月末を退職日とした。ただし、有給休暇が11日もあるので、実際は22日の勤務で終わりだ。その前後に有給休暇で埋める。最後のご奉公だ。新人が後半にわたしの代わりに入るが、研修とインターンも日数を確保しなければならないから、月中で辞める予定が引き延ばされた。このご時世でも人手不足で募集しても来ないとはどうしたのだ。片や仕事がないと困っている人がいるというのに。仲間たちは、きっと若者たちが入ってきて、掃除をさせたら、すぐに辞めるのじゃないかと言っている。なんでもしなくてはいけない。花壇の水撒きなんかしたくないと言っていたら、どこにも勤められない。それでも5月初めに一人入るようでよかった。それが気がかりであった。


 図書館の帰りに買い物をしてゆく。スーパーに寄って、パスタソースが二個買えば2割引きとある蟹のクリームソースというやつと、値引きしたコロッケ、絶対に買ってはいけないラムレーズンの生クリームケーキ、バナナ、フランスパンなどを買う。現金で買ったことがない。ポイントが貯まるので、すべて一回払いのクレジットカードで。現金は持ち歩かないようにしている。
 郵便局に寄って、青森のおふくろとペンクラブの会長からハガキが来たので、その返事の手紙を出した。いままでは、仕事場のパソコンとプリンターを使わせてもらっていたが、今度辞めたら、プリンターは買わないといけない。いままであったのが壊れて動かないので、明日は他の粗大ごみと一緒に出す予約をしていていた。


 夕方、4時前に帰った。何が来るのだろうか。通販で頼んだものはないから、青森からか。妹や北海道の姉、おふくろから送ってくるという電話もなかった。それとも友達から、何か美味しいものを送ってくるのかと、期待して待っていた。5時になり、6時になっても宅配便は配達に来なかった。おかしい。どうしたのだろうか。夜になり、いま、これを書いているのが9時過ぎだ。そこでわたしははっと思った。いつもなら不在票が入っているのに、それがない。きっと配達の女の人の間違い電話なのだ。わたしは来ない荷物をずっと待っていた。待ち続けているという喜劇ではないのか。『ゴトーを待ちながら』というサミュエル・ベケットの戯曲を思い出した。一人それで笑う。だけど、宅配便のお姉さんも怒っているだろう。向こうもさんざん何回も配達して、その時間に行ったら、電話での約束時間にいなかったりして、また持ち帰るのだから。電話で最初に顧客の名前を聴くべきであった。それと住所。配達人とわたしと、二人共に怒っていても仕方がない。いない相手の部屋に行って、来ない荷物を待ってという期待が見事に外れている。また電話が来たら面白いのに。あなた、誰に電話しているの。住所が沖縄であったりしたら面白い。こちらは千葉市です。市外電話番号のないケータイは地域が判らないからとんでもない場所であったりするのだ。


※後日、また何度かショートメールが佐川さんから来た。それは誤報ではなかったのだ。向こうは平塚の方ですねと、平塚の住所を言った。そうか、それで謎は解けた。誰からの荷物と聴いたら、平塚の不動産屋からだった。何を送ってきたのか。今は絨毯と寝袋しかない部屋だ。引っ越しは来週になる。それまで保管はできないというので、返してもらうことにした。二つの家があることを忘れていた。

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