コロナノコロ

コロナ生活から思うこと

桜前線を追って 2

 相方は熱海も小田原も平塚も来たことがない。それで、わたしがどんなところでこれから暮らすのかは興味があったが、電車で通って、改めて、いいところだと思うと言った。わたしが移住したいと思う気持ちが判ると。
 熱海はわたしは三度目だった。だけど行ったことのないところもある。まずは、来宮神社の大楠を見にゆこうと、歩く。相方は外反母趾で足が痛いのによくついてきた。神社も古いが、大楠は樹齢2千年以上あるという老木で、そこはパワースポットになっている。確かに太い縄文杉のように、2千年も生きると木も長寿の老人のような皮膚になる。なにかご利益がありそうだと触る。
 そこから七つのお湯巡りで市街を歩く。わたしも前に来たときはマップをもらって歩いた。入浴はできないが、市街のあちこちに昔からの源泉が湧いている。そのひとつに間欠泉もあった。見たら、なんだ、前にわたしが来たところで、イギリス公使のオールコックの愛犬の墓があり、日本で最初の電話ボックスもあった。それはそこに来る前に、相方にそのことを話していた。
 そこからビーチに出る。ムーンテラスという恋人たちの聖地なのだ。貫一お宮の月は、ロマンチックなものではなく、今月今夜の月を涙で曇らせてやる恨み骨髄の月なのだが、ここでは恋人たちの甘い月にしていた。前に来たときは、そんなにカップルはいなかったのに、うじゃうじゃといる。石を投げれば恋人たちに当たるようなくらい。よかった、一人で来なくて。8年前にここに来たときは、ベンチに座って、喧嘩していたカップルがいたことを語ってきかせた。あんたとは別れると、泣きながら男女が深刻な話をしていたのを、わたしはじっと傍で聞いていた。こんな恋人たちの聖地で別れ話もいいな。
 コンビニから買ってきた缶ビールを二人で飲んだ。海のテラスに座って、夕時の雰囲気も酔える。
 そこから見える貫一お宮の像と松のある所に行く。前にここに来たときは、スイッチがあって、押したら、♪貫一お宮の二人連れーという歌が流れた。それがいまはない。なんだつまらない。いまどきの人たちにこの像を見せたら、「ひどい、DVじゃないの」と、貫一がすがるお宮を蹴飛ばす像は教育上よろしくないと言うだろう。そんなことを言って笑う。金色夜叉も大学生が読めなくて、古本屋に「すみません、きんいろやまたはありますか」と聞いた話も教えた。尾崎紅葉先生が生きていたら現代は驚くことばかり。
 さて、ホテルまで行こうというが、暗いし足が歩き疲れているので、タクシーを拾う。くねくねと駅の裏道の急こう配をタクシーは上る。これは判らない。歩いては上れない。よくこんなところで暮らしていると、前に熱海のマンションも探していたので、借りないでよかったと思う。
 ホテルは四季倶楽部熱海望洋館というところ。山の上だから、歩いて近いとはいえ、やはりきついだろう。看板を見落とすと迷うところにあった。中は綺麗で部屋もセンスがいい。さっそく大浴場に入る。弱アルカリの泉質で誰も入っていない。窓から熱海の夜景が見える。部屋からも夜景。広い部屋でゆったりとしている。買ってきた弁当とワイン、チーズなどで宴会をする。素泊まりだから、朝晩の飯は持参だった。


 翌朝はゆっくりだ。朝風呂に入り、チェックアウトすると、歩いて街まで下りる。その途中に、MOA美術館があったので、外観と庭だけを見てゆく。時間がないので、美術館には入らない。世界救世教の岡田さんが、名画を集めて作った美術館で、前に来たときは鑑賞した。重要文化財がいっぱいあった。面白いのが入口までの七色のエスカレーターだった。
 昨日はいい天気で、今日は曇りだが、遠く初島と伊豆大島が見える。駅前商店街で蒲鉾を買って、どこかで食べようとなる。駅前からバスで初島のフェリー船着き場のほうへと向かう。そこはサンレモ公園と書かれて、イタリアのサンレモと友好都市か何か結んだのだろう。そういえば、熱海の景色はナポリに似ている。
 ロープウエーがそこから出ていて、山の上まで結ぶ。日本一短い100mくらいの高さまで3分で上るという嬉しくもないロープウエーで上へ行く。秘宝館というのがあり相方は知らなかった。全国どこでも温泉場にあるエゲツのないものだと説明する。それと上には新しく造られた熱海城が観光目的で建てられた。そこも興味がない。見たいのは眺望と桜だ。200本の桜は満開の木と5分咲きもあり、まだ少し早かった。トリックアートもあるが、それもどこでも観光地にはあるもので、どうも陳腐すぎる。この高台は恋人たちのための絵馬もあり、ハート型があちこち点在していて、見るものみんなハートとピンク。カップルも多い。疲れ切ったじじいとおばさんが来るところではなかった。見晴らしはいい。熱海の全貌が見られる。
 またロープウエーで降りて、今度は駅まで歩いてみよう。途中に、文学者が使った建物をいまは岩崎の別荘にしてるという起雲閣に入る。太宰や山本有三が滞在したとある。庭と古い木造建築がいい。桜はどこかしこ咲いていた。いまが満開かと思わせた。
 今度は駅から電車で三つ目の小田原へ。相方は初めての街だ。まずは昼飯をと、お濠端の蕎麦屋に連れてゆく。前に来たとき何軒かの蕎麦屋に入ったが、一番うまいと思ったのが、創業150年の橋本。そこの五色蕎麦御膳などをいただく。蕎麦好きだから、少しはうるさい。混んでいて待たされたが、蕎麦屋は午後の空いたときがいい。蕎麦湯が新しいと味が出ない。午後ならとろりと栄養分もありそうな蕎麦湯になる。
 向かいの小田原城に入る。今年の正月も来ていた。駅前の万葉の湯に一人泊まって。そのとき、この橋本で蕎麦を食べたのだ。小田原城は8年前にも来ていた。この日は桜祭りの開幕の日で、提灯を吊って、イルミネーションも準備万端、夜桜は綺麗だろう。だけど、わたしはイルミネーションは反対のほうで、せっかく綺麗な夜桜を人工の光で邪魔するなと言いたい。桜はここは5分咲きでまだ早かった。来週来たらよかった。ここ小田原城は日本の桜100選に選ばれている。お濠端の桜の並木も弘前公園のようだが、まだ早かった。城の隣の二宮神社にもお参り。二宮尊徳はここ小田原の出身で、駅前にも像が設置されていまどきはマスクもしている。学問の神様ではないが、合格祈願の絵馬が多い。歩きながら本を読んでは危険ですと、いまなら歩きスマホのご先祖様だ。
 駅周辺の商店街で買い物して、駅前のチケットショップを見たら、株主優待券が自販機で売られていた。小田急で新宿まで帰るのだが、普通は900円かかるのが650円だった。安い。それでもJRよりは時間はかかり1時間半で新宿に夕方に着いた。
 桜前線を追いかける旅も疲れる。昨日も今日も、万歩計は22000歩で17キロも歩いていた。


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