コロナノコロ

コロナ生活から思うこと

桜前線を追って 1

 平塚の不動産屋で契約をする日だった。相方は暇だろうから、今度住む平塚を見せてやろうと、前日に電話で連絡した。すると、別に仕事もないときというので、ならば、近くに泊まれるスーパー銭湯があるから、泊まりで行かないかと、雑魚寝だが、安いからと誘う。それでもよくよく考えたら、二人で五千円だ。それぐらいなら、どこか温泉場で安い料金でいまは泊まれるだろうと、楽天で探したら、熱海に二人で6千円少しでしゃれたホテルが山の上のほうにあるというのを残り2部屋のうちの1部屋を予約した。前日に急に旅行みたいな予約をしたのも初めて。相方に連絡したら、急なので驚いていた。別に、平塚の先の熱海で、近いから、一泊の旅行というたいそうなものではなく、不動産契約のために足を延ばす軽い気持ちだ。
 わたしは仕事明け。9時まで働いて、それから表参道駅で相方と待ち合わせた。東京駅まで地下鉄で行って、東海道線で平塚まで。電車は通勤時間帯を過ぎていたが、混んでいて座れない。横浜でようやく座れた。平塚までは1時間もかからない。午前中に着いたので、海まで歩いてみようと、南口から一直線にビーチまで伸びるなぎさプロムナードを歩く。どれぐらいかかるかと、時間を測る。たいしたことがない。15分ぐらいで海だ。わたしの住む千葉の稲毛よりも海には近い。そこに湘南海岸公園がある。それはテニスコートやグラウンドもあり運動公園は別にあるが、市民の憩いの場だろう。松並木のプロムナードは海が近いという期待感があっていい。なにより明るい。桜も満開で咲いている。平塚は地名の名の通り、平坦で高麗山という公園はあるが、後は坂道もないので市街地は自転車で走りやすい。海に出たら平塚砂丘だ。砂浜が広がる。太平洋なので波は高い。サーファーたちが自転車にボードをつけて、やってきていた。そうか、自転車の横につけて運べるのだ。それで、平塚に住むようになったら、中古でもいいから、サーフボードを買って、自分でウインドサーフィンを作って乗ってみよう。と、もう湘南オールドボーイになった気分。
 長く続く浜辺は、茅ケ崎が隣で、その先が辻堂、江の島も見えるから藤沢も近い。江の島の向こうが、鎌倉と逗子、葉山と、よく泳ぎに行ったところだ。反対側が一昨年相方と二人で泊まりに行って泳いだ大磯のロングビーチ。プリンスホテルに一泊したが、ホテルの人にビーチはどこですかと聞いた。そうしたら、ビーチというのは長く大きなプールのことなのだ。てっきりプールの他にプライベートビーチがあると思った。そこのホテルはスパもあって、食事もなかなかだった。それから大磯の海水浴場を見つけて泳いだが、そこも磯伝いに見えているから、歩いてゆけそうだ。
 湘南は文学者だけではないが、別荘として戦前から著名人たちが住んでいた。わたしが歩いて、そういう文学碑を探してみたが、鎌倉や葉山だけでなく、大磯から小田原、真鶴と海辺の町にそうした作家たちが暮らしたところがある。文学フェチにはたまらない海岸線なのだ。


 さてと、契約は1時からだから、どこかで昼飯をと、歩いていたら、ホテルの一階でランチバイキングをやっているのを相方が発見、入ってみる。食べ放題はもういいのではないのかと、なんとなく気おくれしたが、食べてみたら、案外と豪勢。鍋なんか蟹とホタテと大きな牡蠣が入っていた。デザートのゼリーもフルーツも、ドリンクもいろいろとあって、それで1200円とは安い。地元の人たちも大勢来ていた。
 午後一で駅前の不動産屋で契約。ところが、紙の契約書なら30分で終わるところ、2時間もかかった。いまはなんでもスマホでやる時代はいいのだが、逆に時間がかかるのはどうしたことか。便利が不便になっている。QRコードを読み取って、そこから進んで、保険の契約とか、あれこれとやっても途中で止まったり、窓口の男性がやってもダメなのを客が判るはずがない。ようやくすべて送信して終わったのが3時。とんでもない。相方も飽きてきていた。
 鍵をもらいに来週も来ないといけない。入居は4月2日にした。とはいっても、千葉の引っ越しは4月末にしたから、それまでは行ったり来たりだ。


 平塚駅地下のスーパーで、今夜の飯と酒も買ってゆく。熱海には何もないかもしれないと。わたしが熱海に泊まったのは8年くらい前だった。あのときは、ふらりと湘南海岸を歩いて、小田原、真鶴、藤沢、鎌倉と逍遥したときだ。熱海に飛び込みで行ったが、観光案内所で、一人なら高くつくと言われ、2万円はかかるというので、そんなに高いのならどうするかと思案していたら、ビジネスホテルでいいのではないか勧められ、駅前の東横インに泊まった。こんな温泉街に来て、ビジネスもないとがっかりとした。それでも毎日先着1名が4千円少しで泊まれて、朝食バイキング付きというので我慢した。無謀な旅で、飛び込みの癖はいまも直らない。
 あのときの熱海は、どこかで晩飯を喰おうと探したら、夕方ですべての店が閉店し、7時ころには開いている店がなかった。仕方なく、全国チェーンの居酒屋に入って、肴とビールで空腹をしのいだことから、食料は買って持ってゆくことにしたのだ。
 今回は前日にネットで予約しておいたから、素泊まりプランでもシービューの部屋で露天風呂はないが、大浴場からも市街と海が見晴らせるというので予約した。
 平塚から熱海も遠くはない。駅前に立ったら、すごい人。若者たちで溢れかえっている。平日なのだが、春休みか。カップルが多いのは、かつての熱海のイメージを払拭して、恋人たちの聖地にしたところに成功の鍵があった。われわれが若いときは、熱海というと、おやじたちが行くところと東京の奥座敷のイメージと新婚旅行はその昔だが、メッカであったところ。うちの両親も戦前の新婚旅行は熱海に来ていた。それが、温泉街がどこも沈滞ムードになり、没落していたとき、活性化で海岸にビーチを作り、若い人たちを取り込む努力が結実したのだ。8年前に来たときも、こんなに若者はいなかった。ここ数年で復活してきたのだろう。
 駅前で前を歩いていたカップルの女の子がこけた。危ないと思ったら、ミニスカートからお尻が丸見えでしかも、Tバックだったので、わたしは目の保養と喜んだが、相方は怒って、いまどきの子は風でスカートがめくれたらどうするのよと、憤慨していたのに笑う。母親が娘を思う気持ちなのだな。


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