コロナノコロ

コロナ生活から思うこと

アナログじいさん

 職場で一緒のじいさんは、わたしより4つ年上だが、仲がいい。ずっと独り者で通した。以前はどんな仕事をしていたか判らないが、この学園には20年くらい契約社員でいてしまった。どうして、ちゃんと正社員で入らなかったのか。本人も、正社員で入っていたら、いまごろは管理職になっていて、給与の賞与もよかったのにと、悔やむのだが、もう遅い。ひとつところに甘んじて、自分のレベルを高めてゆかない人間は多い。社会の競争に巻き込まれ、男は外に出たら7人の敵がいるという闘いに参加せずに、われ関せずと、じいさんのような人生もまたいいかと、見ていて気楽な生き方に最近は同類項を見るようだ。
 じいさんは、いまどき珍しいアナログ人間で、それはそれで否定されるものではなく、逆に、わたしのような、デジタルに疑問を持ってきた人間にとっては、そういう関わりのない人のほうがいいかなと思うのだ。
 じいさんは、自分の行っている銀行から、来年の手帳をもらってきた。それを仲間の先輩に上げようとしたら、いらないと断られたと、わたしにくれた。わたしも手帳は使わないが、メモ用紙にしてもいいかと、もらうことにした。先輩のほうは、スマホのスケジュールにメモるから使わないと言っていたようだが、わたしもその口で、手帳なんか、もう何十年も使っていない。いまどき、手帳をくれる銀行があるのに驚いた。
 じいさんは、あるとき唐突に、「ネットってなんだ?」と聞いてきた。わたしが、スーパー銭湯のことを話したら、どこにあるのかと聞いてきたので、ネットで調べたら、都内のスーパー銭湯といっぱい出てくるからと教えたら、そのみんなよく言うネットってなんだと、いまごろ聞いてきたのだ。唖然とするが、笑ってはいけない。それは実に貴重な人なのだ。江戸時代からタイムスリップしてきたようなじいさんだった。冗談ではなく、真面目に聞いてくる。インターネットのネットだと教えたら、それも判らない。スマホは持っているが、インターネットに繋げたことがない。まさか、そうなのだ。電話とゲームだけはしているが、メールも判らないので、していない。勤めている学校からは、連絡はすべてスクールメールでするとだいぶ前にそういう連絡網にしているのだが、じいさんときたら、スマホを買ったときに何も教えてくれなかったからと、そのままにしてあった。スマホを見たら、ちゃんと最初に設定されたメールアドレスがあった。それを書いてじいさんに見せた。パスワードが判らない。それは、契約したときの契約書に書かれているはずだと教えるが、捨てたかもしれないという。学校からは、給与明細なども今度からは紙ではなく、メール添付で送りたいといってきた。それで、全社員に、メルアドの提出を求める書類を配布したのだが、じいさんは、それもなんのことかと、放置していた。
 世の中、パソコンができて、スマホができてあたりまえだと、それができない人たちを切り捨てる社会というのはよくない。小学生以下と高齢者はどうするのだ。世の中、すべてが、できる人だけがやればいい、できない人は知らないと、そういうデジタル社会になっている。マイナポイントがそうだった。わたしはいまだに、何度も挑戦してもできない。誰でも、格安スマホでもできなければいけないのに、わたしの機種ではできないというのだ。コンビニでもネットでも郵便局でもできない。先日は、接触アプリをいままで使っていたのが、急に厚労省のホームページになって、複雑になり、接触者の確認画面がなくなったので、削除してしまった。頭のいい人たちがプログラムを組み立てて、シンプルなものを複雑にして失敗している。
 メールでも悪意のある詐欺が増えて、慎重に見なければいけないし、成りすましのホームページですと、開くことをセキュリティが拒否したりする。実にそれが多い。危ない偽物ばかりではないのか。そういうデジタル社会、ネット社会なんか危なくて怖くて、じいさんのように、初めから知らないで通したほうがいいのだ。そうすれば、騙されることもないし、詐欺に遭うこともない。SNSでも、いろんな人が友達申請してくるが、信用がならない。外人もすごく多いが、手あたり次第にやっている。電話しか使えないほうがしあわせなのだ。
 じいさんは、いまだにパソコンの意味も解らず、手書きで報告書を書いている。それでいい。じいさんのように、もう年だから、覚える必要はないと、わが道を行く人に拍手を贈りたい。

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