コロナノコロ

コロナ生活から思うこと

閉塞してゆく旅路 3

 泊まるホテルも外側を見たら、廃墟ではないのかと思うほど古い。昨日泊まった旅館はよかった。90年以上経っているが、和風旅館は古いほど味があるのに、近代的なホテルは古くなると腐っている。素材が問題なのだろう。経年で劣化しないもの、味わいがあるのは、西洋の教会やお城もそうだが、ビルは古くなれば化け物屋敷となる。
 客は少ない。大きなリゾートホテルだが、期待していたプールも使っていないようで、藻で緑色。もう完全に泳げない。部屋は広かった。ダブルルームにエキストラベッドが二つで、押し込めたら四人が泊まれる部屋に一人。それで一泊朝食付きで3600円だから文句は言うまい。ベランダからはすぐが海。潮騒が聴かれて太平洋に大島や伊豆諸島が並ぶ。夕日は見えないが、朝日は水平線に上るのが見えるだろう。7階からだから展望はいいが、ベランダは隣の部屋にも行ける治安の悪さ。
 さっそく大浴場に行く。館内はマスク着用とある。風呂には誰も入っていない。貸し切り状態だ。昔の浴槽が大きいのがひとつと露天風呂の広いのがひとつだけ。いまはスーパー銭湯のほうが楽しめる。わたしがコンサルなら、そんなに改装しなくても仕切るだけで、イベント湯にしたり、ジェットバスから炭酸泉と、そんなのを区割りして増やすが、いまはただ風呂に入るのではない。温泉は遊び場なのだ。
 暗くなるのが早くなった。部屋で弁当をいただき、家では飲まない酒も飲む。今日は歩いた。20キロは歩いたか。疲れ果てベッドに沈む。


 翌朝、風呂に入り、バイキングの朝食だが、ありきたりのものばかりで、加工品が並ぶ。手作り感がまるでない。お客は50人くらいだろうか。年配者が多い。10月になれば、東京も解禁されるので、Go Toで来るのだろうか。入口で全員に手袋が渡される。バイキングの料理も使い捨てのビニール手袋をしてトングを掴む。その辺は徹底している。
 コーヒーも不味いから、引き揚げた。9時過ぎにはチェックアウトしていただきたいというので、長居は無用と出た。熱川からは戻るだけだが、三日目はいい天気で、青空。帰るという日に皮肉なものだ。もうひとつだけ見たいものがあった。大室山だった。何かの雑誌でだいぶ前に空から撮影した写真を見た。なんだろうかと思った。木の生えていない坊主山だが、コニーデ型の火山で、火口も見えているが、全体が草原なのだ。それが平野にぽこんと出ている出べそみたいな形が不思議だった。
 そこに行くには、帰る途中の伊豆高原駅からバスに乗る。伊豆高原駅はそれまでの途中の駅とは違い、しゃれていてモールのようにテナントが張り付いている。バスは一時間に一本。出たばかりで一時間も待たないといけない。それで周辺を散策。別荘地のようで、不動産広告が多い。スーパーが駅前にあった。またそこで昼飯を買ってゆこう。どうも観光地の食事処では食べたくない。混んでいるのと高いわりには味はどうなのか。好きなものを買って食べたほうがいいと、地元の鯛を使った名物の箱寿司を買う。自販機も観光地値段のときがあるから、スーパーで調達。
 バスは別荘地を走る。着いたところがシャボテン公園。その前が大室山でリフトで上まで登る。昨日までは山も見えず、登っても雲ばかりだったろう。だから、天気予報を見ながら最終日に入れた。リフトは遅い。歩いたほうが早いだろう。標高は580mというからそんなに高くはないが、上からのパノラマがすごい。お釜は深さ70mというが、全部草原で、噴火口の中でアーチェリーがやれるようになっている。ぐるりと火口縁を一周する。気持ちがいい眺望だ。富士山が見えた。この日が初冠雪という。伊豆諸島がずらりと並ぶ。一番近くに初島。大島が正面に、利島から神津島まで天気がいいので遠くまで望める。真下にシャボテン公園とゴルフ場、昨日行った城ケ崎海岸も見える。
 リフトの終点の売店では買うものがない。ベンチに座って弁当をいただく。見晴らしのいいところで食べる飯は格別だ。本当なら隣にあいつが座って一緒に食べているのだろう。来なくてよかった。初日と二日目はぶーぶー言ったろう。泊まりのホテルも最悪だったから。旅にいても今後のことを考えている。電話は今朝も鳴ったが拒否した。どうせ、恨みごとばかり、同じ妄想を聞かされる。娘からは返信がなかった。身内としてどうしたいのか。どうにかして病院に連れてゆく方法として、いま、金に困っているから、貸してあげるからその代わりにわたしとメンタルクリニックを受診することを条件にしようか。市谷の駅前にあるのを調べていた。最初は精神科でも町医者でいい。そこで診断書を書いてもらえば、後に障碍者年金がもらえるのだ。薬は飲まないだろうから、いまは注射で薬と同じ効果が持続するものがあり、一回で二週間はいいそうだ。ならば、ひと月に二回だけ通院すればいい。それもついて行ってやらねば、自分はおかしくないと拒むだろうから。
 リフトで下に降りてきた。伊東駅までのバスに乗る。観光地はバス代も高い。タクシーのように上がってゆく。伊東市も広い。郊外にはいろんな全国チェーンが張り付いて、やはり車社会なのだ。車がないと買い物も不便なようだ。
 駅から熱海行に乗る。昼過ぎて、いまから帰ったらちょうどいい。するとまたあいつから電話。いま電車だから出られないと切る。とりつかれている。拒絶すればするほど向かってくる。すがられて、どうしようもない。他に頼る人がいないからだ。可哀想な人だ。飯もろくに食っていないのだろう。だから痩せてきている。餓死するよりないのか。それも見て見ぬふりはできない。困った病気だ。


 熱海から上野東京ラインという快速電車が走っている。それに乗った。なんと早い。大船、横浜、川崎、品川と停まる駅も少なく、東京駅には一時間半で来た。総武線に乗り換えて、千葉まではすぐだ。なんとも疲れる旅だった。コロナでどうなっているのか検証する旅でもあった。いままでもあちこち行ったが、やはり現場は厳しい。この傷は長く残るだろう。観光地は立ち直るのか。思いは暗く、リュックの酒もなくなった。


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