私立の付属小学校では、いまが入学試験の真っ最中だ。早いと思うが、そんなものなのだろう。倍率は4倍以上と、結構狭き門なのだ。幼稚園もあるが、それはお受験と言われていた。うちの学校も初等部では都内の御三家に入るようで、芸能人の子供らが入っていて、人気があるところと言われる。それで、試験は何日かに渡って行われ、正門はわれわれが試験前日から、パネルで目隠しをした。マスコミ対策で、週刊誌の記者などが、カメラで撮るらしいが、うるさいので見えないように毎年するのだ。それは運動会でも同じようにする。
　受験というと、どうも正月明けから始まる気がするが、それは大学で、幼稚園、初等部から高等部まで一貫教育の私立では、先に子供らの入試を行っている。どういう問題が出るのか興味のあるところだが、われわれは知り得ない。
　毎日、保護者面談もあって、先生と事務職員さんたちは忙しく動いている。コロナでコーンとバーで動線を作り、密にならないようにしているから、分散させて出入りもそぞろだ。

　そんなときに、相方が病院にとうとう行った。娘をどついてから、本気を出して動きだした。東大付属病院の精神科に、先日、娘一人先に行って、先生の相談に行っていた。そうしたら、相方は仕事をしたりしているので、そんな重症ではない、統合失調症ではなく、妄想性障害、それより軽い症状なのではないかと、話を聴いただけで、医師はそう娘に言ったとか。後で、娘からわたしにメールでそう書いてきた。仕事をしていても続かない。すぐ辞めたり、どうも疑心暗鬼になって、人が信じられなくなるようなのだ。それでも働く意志はあるからまだいい。これが引きこもりで、部屋から出ない陰性の精神病なら、難しいが、相方のは陽性で、積極的、明るいし人と話すのも好きで、聡明な印象と言葉遣い、履歴書もしっかりと書いて字がうまいので、面接では一発で決まる。それから半年続くか、三か月で辞めるか、いずれにしてもメッキが剥げてくる。妄想がバレてくるのだ。
　相方は、東大付属病院で以前、わたしと出会う前に事務で勤めていたので、娘と話して、そこなら受診してもいいと言った。いままで頑なに自分は精神病なんかではありませんと、拒否していたのが、初めて、受診すると言ったのは、すごい進歩だ。かといって、認めているのではないのだろう。この日の朝から、予約していて、母子で行っているはずだ。その結果が知りたい。娘からは、何日か前に、そのまま入院となれば一番いいのだけどと、メールが来ていたが、きっとそこまでは承服しないだろう。
　わたしも心理クリニックを受診したときがある。40年以上も前の若いときだが、パニック障害という言葉がまだなかったときに、不定愁訴でカウンセリングを受けた。最初にしたのはペーパーテストだった。どんな内容か忘れたが、それで分析結果をすぐに先生は出してくれた。わたしは強迫観念が人より強いのだとか。いまはぞうではないが、若いときはそれが原因で、精神的な病気に罹った。
　きっと、相方もテストをさせられ、問診を受け、脳波や脳のCTかMRIを撮ったりするのだろうか。娘には、前に、多重人格についても先生に聞いてとか、今朝はメールで、同じことを何度も繰り返し言うから、アルツハイマーも調べてと伝えた。いまはいい薬があって、親父も認知が進まないように、アリセプトという薬を飲ませられていた。ただ、相方は薬に対して疑念を持ち、栄養剤だと騙しても、ネットで調べるからごまかせない。自分がどういう薬を飲ませられているか、判ってしまうのだ。ならば、二週間に一度打つ注射なら、薬と同じ効果があると本で読んだが、それをしてもらえばいい。通院で済むなら、それに越したことはない。問題は治療を続けるかどうかなのだ。それを頑迷に抵抗して拒絶すれば強制入院ということになる。果たして、今日の面接と試験はどうなったのか、まだ連絡はないが、合否が知りたい。アメリカの大統領選挙の結果よりも重要でやきもきする。一番いいのは、通院で、仕事もしながら、社会と繋がっているのがいい。生活保護でもいいが、それは相方のプライドが許さないだろう。自立したいと本人は言っているから、そうさせたい。千葉のうちのマンションに少し相方の荷物を運んだが、いまは区役所で用意したマンションに大方置いてある。入院となっても長期でなかったら、また戻る場所がいる。ただ、一時的な駆け込み寺は三か月より暮らせない緊急避難場所なので、いずれ出ないといけない。そのときは千葉で引き受けるつもりだった。
　入院になるか通院になるか、それとも拒絶するか、20年も放置してきたから、治らないかもしれないが、再発する人もいるようで、病識だけあれば、治療する気持ちになるし、一緒に暮らせるのだ。まるで娘が入試を受けているときのように、一日、気をもんでいる。
※これを書いていたら、娘からメールが来て、月内に脳内検査を行うと書いてきた。よかった。これで、前進だねと返信する。